{完読本] 内井惣七、『空間の謎・時間の謎 宇宙の始まりに迫る物理学と哲学』、中央公論新社、2006.

時間や空間の哲学というと物理学や数学をほとんど考慮しない論考が多いという不思議な状況の中、この本はとても貴重だし価値がある。カントについてのコメントのあたりは全面的にではないが納得してしまうものだ。プラトニアの話とそれを関係説のつながりから見る話は、一般的な解説書にはあまり見られないもので面白い。しかし、後半の方は普通の宇宙論の解説書のようになっていて、哲学の話はほとんど現れてこなくなってしまうところは少し残念か。現代の宇宙論を解説して、しかもその哲学的含意を取り出すには紙面が足りないだろう。
一つだけ違和感を覚えたのは、ライプニッツの充足理由律の扱い。特に後半では、ある物理的事象が起こったことを主張する理論が、それがなぜ起こったのかを説明する仕組みを備えていなければ、それはそもそも理論であるとか説明しているとも言えない、という事柄が充足理由律であるとされている(例えばp.224)。しかしこれはかなり自然な事柄のように思われる。果たしてライプニッツが当時の状況でことさらに充足理由律という名前をつけてまで主張しなければならなかった事柄が、そのようなものなのだろうか。もしそうだとすると、少なくとも現代的にはあまり実質のない原理のような気がしてならない。