J.Weiner, "Frege Explained"読書ノート (3)

関数の値域value-rangeという概念について。

ここでのWeinerの説明は、自分の解釈がかなり入っているようである*1。概念は関数として考えられるから、関数の値域とは概念の場合に言えば概念の外延のことである。さて、『基礎』で数を概念の外延とすることにやや留保を付けていたフレーゲは、その後すぐにやはり外延を用いることが本質的であると考えるようになる(p.119)。というわけで「関数と概念」以降、値域という概念が前面に出てきて、『基本法則』では値域オペレータとして概念記法の中に組み入れられる。

ところで、論理学で扱われる(概念記法によって書かれる)すべての関数は値域を持たなければならない。なぜなら、もし値域を持たない関数が存在したとすれば、概念記法によって意味を持たない対象名が形成されてしまうことになり、論理的に完全な言語に空虚な名前は登場しないとする「意義と意味について」の主張に反するからである*2(p.120)。

さてでは任意の関数が値域を持つということのフレーゲの正当化はどうなっているのか。『基本法則』において値域オペレーターは原初的概念として登場している。だから、フレーゲの教説によれば原初的概念は定義不可能であり、ただ示唆が与えられるにすぎないはずだ。その示唆として彼が与えているのが、有名な基本法則V(公理5)つまり値域の等しい二つの関数は等しく、その逆も成り立つということを述べるものである。そしてこの公理は論理法則と見なされている。さてこれがなぜ論理法則であるのか。フレーゲが第9節で与えている説明には二つのものがある。(1)このことは概念の外延についての、ライプニッツ以来の伝統の中でおなじみのものである。(2)数を定義するには関数の値域が必要である。後者の説明は循環していて説明になっていない。必要だから必要だと言っているだけだ。(pp.121f.)

この第9節の説明では不十分だと感じたのだろう、第10節のタイトルは「関数の値域のより正確な特徴づけ」である。フレーゲはそこでも満足しないとみえ、第31節で再び取り上げる。第31節ーーフレーゲの書いたものの中でもっとも難しく不明瞭なものの一つ(p.122)ーーは、すべての単称名は意味を持つということを論じるものだが、値域記号に大きなスペースが割かれている。そこでのフレーゲの説明が何なのかについては解釈が分かれる。だが、これをすべての関数には値域が存在するということの「証明」と見なすのはやはり無理がある。これは「示唆」の域を出ていないと考えるべきだろう。いずれにせよ。これらのことは関数の値域という概念についてフレーゲが居心地の悪さを感じていたことを示している*3(p.123)。

そして、この居心地の悪さは的中する。すなわち、基本法則V(と基本法則VI)から、ラッセル・パラドクスが出てくるのである。

*1:J. Weiner, `Section 31 Revisited: Frege's Elucidations', in E. Reck (ed.), From Frege to Wittgenstein: Perspectives on Early Analytic Philosophy, Oxford, 2002.

*2:ということは、ラッセルパラドクスに対してある関数は外延を持たないとするアプローチはフレーゲ的枠組のなかでは取ることができないわけだ。

*3:基本法則』序文「私の見る限り、論争はただ値域についての基本法則(V)に関してのみ起こりうる。」