José Ferreirós, Labyrinth of Thought, Birkhäuser, 1999.

集合論の歴史の本。類書はいろいろあるが、この本の特色はカントールの背景をなす19世紀ドイツ数学界の状況を重視していること。また、集合概念の起源としてリーマンとデデキントを大きく取り上げるところ。特にデデキントとの関わりは多くの人が重要だと考えていながらあまり取り上げられないことでもあって、よい視点だと思う。
しかし特にカントールの読みに限って言えば、著者の読みには賛同できないことに多数出会った。あまりにデデキントとのつながりを強調するばかりにか、カントール(ことさら前期)の独自性を見誤ってるように思えた。出されてくる差異も納得できるものではない。例えばデデキントが順序数を基本概念としてるのに対して、カントールは基数を基本概念としているというのは単純すぎる。また、カントール集合論が素朴集合論ではない、ということを初めて述べたのはPurkert&Ilgauds(1987)だという記述は謎。それ以前に多くの人が述べている。
あまり論述なしに"it seems that..."と述べるところが多く、そのような推定自身は価値があるとは思うがあまり多用するのはどうだろうか。ポイントや独自性がよく分からない、単に歴史事項をなぞるだけ(しかも他人がまとめたものに基づく)のところもあって少し飽きた。

例えば次のようなところは私が考えてたことに真っ向から対立するのだが。なんでそうなのか議論はない。

If that principle【カントールのいわゆる「順序数の産出原理」】 were valid, it would follow that there is a non-denumerable ordinal, etc., but this was precisely the weakest point in his whole presentation. The principles on which the 1883 `proof' rested were by no means as clear as the Power Set Axiom, which can be taken to be the basic principle behind the 1891 theorem. (p.286)