完読本

ダン・ザハヴィ、『フッサールの現象学』、晃洋書房、2003.

フッサールの哲学のとてもいい概説書。ようやくある程度信頼できる、また検討に値する解説書に出会った。とはいえ、たぶん現象学を知らない人が読んで分かるようなものではないだろう。ある程度読んだ人に解釈の道筋を提示するような本。やはり内的時間意識…

Sara Negri & Jan von Plato, Structural Proof Theory, Cambridge University Press, 2001.

自然演繹と式計算の様々な体系とその対応関係、関係する定理など。地の文での解説も豊富だし、証明もかなりきちんと書いてある。最初の4章までは教科書としてうまく使えるだろうし、非論理的公理を推論規則としてどのように入れるか、そのとき証明論的性質…

飯田隆編、『哲学の歴史11 論理・数学・言語』、中央公論新社、2007.

総じてよかった。この分野の日本の研究のレベルが高いことがうかがわれるということだろう。欲を言えば、言語哲学が衰退した後の分析哲学の状況、心の哲学や認識論がもうすこし拡充してあればよかったし、物理学の哲学・生物学の哲学といったところのトピッ…

岡本賢吾・金子洋之編、『フレーゲ哲学の最新像』、勁草書房、2007.

ずいぶん少しづつ読んでいた。レベルの高い論文が多く、解説もしっかりしていてよい本だった。ある程度フレーゲを知っていないと分からないものばかりだが。ダメット、ルフィーノ、スンドホルムの論文に感銘を受けた。

谷村省吾、『理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何 双対性の視点から』、サイエンス社、2006.

自分の周りで話題になっていたので読んでみた。物理学者が書いた数学の本。直観的な具体例や説明の仕方がうまく、すばらしかった。ホモトピーやホモロジーも直観的なアイデアは理解する(理解したような気になる)ことができた。微分幾何は自分には無理だろ…

上山安敏、『神話と科学 ヨーロッパ知識社会 世紀末〜20世紀』、岩波書店、2001.

原著は1984年。主にウェーバーを中心に、19世紀末から1920年頃までのドイツ社会(ワイマール文化の前)を描く。対立軸の取り方がうまく、読んでいて非常に面白い。大学組織の中で細分化され、産業化・官僚化する学問知の姿を代表するウェーバー、フロイト、…

Nigel Cutland, Computability: An introduction to recursive function theory, Cambridge University Press, 1980.

再帰関数論の定評ある入門書。素晴らしい本だった。何をどこまで説明して、何を説明しないかや、議論のポイントの示し方がとてもうまい。無味乾燥と言われがちな再帰関数論だが、すんなりと理解できる。不完全性定理も再帰集合の話を介してやれば、当たり前…

Michael Friedman, A Parting of the Ways, Open Court, 2000.

新カント派を背景に、カルナップ、カッシーラー、ハイデガーを比較した本。新カント派がカント解釈上で抱えた問題がいかにこの三者に引き継がれ、そして解決されていないままであるかを論じる。とても面白く読めたし、新カント派、そしてカッシーラーの重要…

Akihiro Kanamori, The Higher Infinite: Large Cardinals in Set Theory from Their Beginnings, Springer, 2003.

80年代までの集合論のトピックを扱った本。証明をあまり追わずに、どんなトピックがあるのかざっと眺めるように読んでいた。それでも刺激的で面白いところがいくつもあって楽しかった。SolovayとWoodinの影響は凄いな。

『現代思想』第35巻第3号(総特集:ゲーデル)、2007.

ひとまず読んだということで。P=NP問題の話が一番面白かった。ところでconstructible universeって構成的宇宙と訳すのが通例なのか。構成可能的宇宙だと思っていたのだが。constructive set theoryというのもあるし、各ランクでのconstructible setは構成主…

三上真司、『もの・言葉・思考 形而上学と論理』、東信堂、2007.

見た目は分析的形而上学の入門書。実体論と束理論、存在しない対象のパラドクス、フレーゲのパズル。しかし分析的形而上学に慣れた人は、読んでいて発想が違うので戸惑うだろう。特に言語の意味から会話者の方へ常に論点が移行するのは、かなり戸惑う。良く…

Roger Schmit, Husserls Philosophie der Mathematik: Platonistische und konstruktivistische Momente in Husserls Mathematikbegriff, Bouvier Verlag, 1981.

ちょっと前までこの分野の標準的文献だったもの。いまさら通読。確かによく書けていると思う。この分野で久々にある一定のレベル以上のものを読んだ気がする。『算術の哲学』の問題点がどこにあるのかについての指摘は適切だし。その直後の転回についてもち…

Per Martin-Löf, Intuitionistic Type Theory, Bibliopolis, 1984.

読むには読んだし、ところどころ感銘を受けるところもあったが、全体としてポイントがつかめないままだった。関連するものを読んでみないと。

D.ケプセル、『ネット空間と知的財産権』、青土社、2003.

片手間の読書。面白くなかった。大きく特許法と著作権法に具現化される、アイデアの表現の区分(有用性と芸術性)を一元化すべしという提言。法律論としては面白いかもしれないのだが、哲学としては得るものなし。この本が寄りかかろうとしている常識存在論…

J. Philip Miller, Numbers in Presence and Absence: A Study of Husserl's Philosophy of Mathematics, Martinus Nijhoff, 1982.

フッサール数学論の研究書。この分野は参考になる二次文献が少ないのであまり期待してなかったが、やはりあまりよくなかった。この本の主要なテーゼ、他の人の解釈に反対して打ち出されている解釈は、どれもあまり正しいようには思えない。『算術の哲学』に…

Dag Prawitz, Natural Deduction: A Proof-theoretical Study, Dover, 2006.

1965年の再版本。自然演繹の体系と正規化定理、その帰結について。基本的にメタ定理の話なので、文字が多い。証明はそこそこ書いてある、というくらいか。哲学的なコメントは少ない。その後の研究の標準的なテキストになった歴史的意義の大きな本。

佐々木力、『数学史入門 微分積分学の成立』、筑摩書房、2005.

あまり私には面白くなかった。微積分の成立をギリシャの双曲線の求積法からたどる。ニュートン・ライプニッツと、その後のコーシーらの話はそんなに大きくなく、そっちを期待していた私には期待はずれだった。個々の証明が詳しく書いてあるのはいいが、いま…

Abraham Fraenkel, Yehoshua Bar-Hillel, & Azriel Levy, Foundations of Set Theory, North-Holland, 1973.

集合論の哲学の超基本文献。極めて多くの文献を引きながら、この当時までの集合論の基礎に関する様々な問題を論じている。ZFのそれぞれの公理に関する問題、ZF以外の様々な公理系に関する問題。後半は直観主義数学と、一般的な論理学の概念の解説になってい…

F.W.ニーチェ、『悦ばしき知識』、筑摩書房、1993.

片手間に気が付いたときにぱらぱらと読んでいたもの。第五書は一貫したテーマがあるようにも見えて、やや読めた。それ以外は何の話なのかよく分からないもの多数。やはりアフォリズムは苦手だ。最初と最後の詩は興味なし。面白くない。

José Ferreirós, Labyrinth of Thought, Birkhäuser, 1999.

集合論の歴史の本。類書はいろいろあるが、この本の特色はカントールの背景をなす19世紀ドイツ数学界の状況を重視していること。また、集合概念の起源としてリーマンとデデキントを大きく取り上げるところ。特にデデキントとの関わりは多くの人が重要だと…

神崎繁、『フーコー 他のように考え、そして生きるために』、日本放送出版協会、2006.

フーコーというと社会学、哲学としても政治哲学や社会哲学の領域で語られることが多いが、この本はプラトン、ストア派、デカルト、ニーチェ、ハイデガー、メルロ=ポンティ等々と哲学史の文脈からフーコーを見ている。とても良い本。こうして哲学史の文脈に…

江川泰一郎、『英文法解説 改訂第三版』、金子書房、1991.

有名な英文法の解説書。例文が豊富だし、注釈も納得させられるところが多い。似たような意味の様々な語句について、その違いが明確になり、とても参考になる。自分が漠然と理解していた英文の感覚がexplicitになっていく過程は楽しい。

Ivor Grattan-Guinness, The Search for Mathematical Roots, 1870-1940: Logics, Set Theories and the Foundations of Mathematics from Cantor through Russell to Gödel, Princeton University Press, 2000.

本文600ページ、参照文献数約1900件。だいたいラグランジュからクワインに至る数学基礎論の歴史を概観したもの。この分野の第一人者による壮大なまとめ。歴史家の著述は中立的であるべきと考えているらしく(p.572)、個々の立場の評価は控えられている。*1だ…

金子洋之、『ダメットにたどりつくまで』、勁草書房、2006.

こういう本が出て良かった。ダメットについての本や論文は読みやすそうなものでもいくつかあるが、たいてい数学の哲学の話をふまえていなくて不満が残ることが多いので。この本は難しい。ダメットを読んで、この本である程度の見取り図を得て、またダメット…

寺田文行・坂田泩、『基本演習 微分積分』、サイエンス社、1993.

こういうのはひたすら地道にやらないと。一ページで一つの内容が完結するようになっているので、ペースを作って読むのにとてもよい。二変数関数の微積は難しい。

W.G.ライカン、『言語哲学 入門から中級まで』、勁草書房、2005.

とてもいい本だった。言語哲学の基本的な問題について、古典的見解とそれに対するいくつもの異議がきちんと解説されている。入門書としてかなり適してるだろう(とはいえ、本当の入門者は解説してくれる人がいないときついだろうけど)。最後の隠喩論は言語…

W.v.O.クワイン、『論理学の方法』、岩波書店、1961.

クワインによる論理学の入門書。伝統論理学や日常言語とのつながりが自然に意識されていたり、さすがによく書けていると思うところが多い。量化をベン図から始めて、一項述語、多重量化、二項述語と順々に拡大していくところなど。ただどこまでも真理関数的…

竹内薫、『物質をめぐる冒険 万有引力からホーキンスまで』、日本放送出版協会、2005.

この人の一貫して追っている、物理学の発展の中で物質という概念はどう変容してきたのか、という問いはとても重要なものだと感じるし、本が出るたび期待するところは大きいのだが、今回はがっかりしてしまった。古典物理から量子物理を中心とする現代物理の…

D.クーセック・G.レオンハルト、『デジタル音楽の行方』、翔泳社、2005.

インターネットを初めとするデジタル技術が音楽にもたらす将来的影響について、様々な観点から未来予測を描いた本。各所で評判が高いみたいだが、私にはあまり面白くなかった。なぜだろう。 どうも夢物語を描いているだけに見えるだろうか。そう言うには具体…

Myles Burnyeat, A Map of Metaphysics Zeta, Mathesis, 2001.

アリストテレス『形而上学』Z巻の構造を中心に、アリストテレスの諸著作の関係を扱った有名な本。複雑なアリストテレスの著作の読解に役に立つ。明解な論述。料理しながら片手間で読んでいた本。いま読まなくてもいいかという感じもあったが。