完読本

G.ドゥルーズ、『意味の論理学』、法政大学出版局、1987.

文とも、物体(身体)とも区別される、独立した領域としての意味=命題*1の世界。もちろん命題は何かを表現するが、命題の機能は表現することだけに尽きるのではない。むしろ、命題はそれが表現すべきところのものを「構成」する、生成変化としての出来事で…

永井均、『これがニーチェだ』、講談社、1998.

とても素晴らしい本だ。「倫理学」に関するこの人の著述にはいつも感嘆させられる。*1 何度も繰り返しておくれ、私のこの人生よ。寸分たがわぬこのままで。ーーそれは私の生とこの世界を、外から意味づけているのではない。私の生とこの世界そのものを、それ…

S.ブラックバーン、『ビーイング・グッド 倫理学入門』、晃洋書房、2003.

倫理哲学の小さな入門書。第一部でそもそも倫理学など不可能であると言いたくなる理由(相対主義や進化論、決定論など)への反論、第二部でいくつかの倫理学上の概念(欲望、快楽、自由など)について、第三部で倫理学の基礎について。第一部はとてもよい。…

高尾利数、『イエスとは誰か』、日本放送出版協会、1996.

新約聖書の福音書のうち、マルコをマタイとルカから切り離し、その元となったと考えられる原マルコを探りながら、人間としてのイエスの姿を提示する。ヨハネがほとんど出てこないのが気になる。教会での講話らしく、ところどころで現代文明批判が出てくるが…

名和小太郎、『ディジタル著作権』、みすず書房、2004.

一般の人が思い浮かべるであろう著作物の概念を取り出した後、新たに著作物とされるようになったデーターベースやソフトウェア等がその概念からいかに離れているかを論じる。その中での著作権法体制の変容と、今後の予測。非常に多くのことが書かれているが…

増田聡・谷口文和、『音楽未来形』、洋泉社、2005.

現在の音楽に関する著作権の問題は、我々の音楽に対する接し方、音楽概念や作品概念が変化していることに由来するという視点を持つ本。そこで過去に目を向け、音楽概念の系譜学をする。 昔は音楽の同一性の基体は楽譜だった。楽譜を通じて表現される抽象的な…

L.レッシグ、『FREE CULTURE』、翔泳社、2004.

文化をいかに創造するのかという観点から著作権を考えるならば、やはりこの「福音書」は読んでおかなければならないだろう。豊富な事例、一貫した信念、歯切れのよい論述。読んでいてこの上なく面白いし、事例は参考になることばかりだし、ひたすら楽しい。…

Penelope Maddy, Naturalism in Mathematics, Oxford University Press, 1997.

もうちょっと面白いと一気に最後まで読めるのだが、前著に引き続きこれもどうも面白くないので、中断しつつ何とか読み終えた。クワインの不可欠性の議論を用いて、(無限)集合に対する実在論を主張した前著とは違い、この本では実在論は放棄される。その理…

中山信弘、『マルチメディアと著作権』、岩波書店、1996.

この本も名著として有名。第一章では著作権がいかなる立法思想を持っていて、どんな役割を果たすべきものなのかを概説。特に特許法と初めとする他の知的財産法との比較で書かれているのはとても参考になる。最近の著作権法をめぐる言説は著作権法と他の知的…

プロジェクトタイムマシン、『萌える法律読本 ディジタル時代の法律篇』、毎日コミュニケーションズ、2004.

装丁とは違って(?)かなりまじめな著作権の本。ところどころでキャラクターが「ほぇ」とか「みゅ」とか言っているが、本文では細かい字で著作権法第何条では、とか東京地裁何月何日判決において、など書いてある。けっこう不思議な本だ。全体は三章に分か…

熊野純彦、『メルロ=ポンティ』、日本放送出版協会、2005.

メルロ=ポンティの哲学への入門としてはとてもよく書けているのではないだろうか。少なくとも、メルロ=ポンティの主要な(彼の哲学としてよく取り上げられる)側面について、読みやすく書かれている。読んでいるときからとても多くの疑念を感じたが、それ…

E.ジルソン、『中世哲学の精神 下』、みすず書房、1975.

下巻では認識論、愛、自由意志、法、道徳論、自然、歴史、そして哲学について。相変わらず分からないところは多々あるけども、説明の明晰さに爽快感を覚える。楽しい読書だった。印象的な言葉を二つ引用しておこう。「われわれは、神が存在することを知って…

Shaughan Lavine, Understanding the Infinite, Harvard University Press, 1994.

集合論の哲学の本。まずカントールやツェルメロに関する歴史的事項を扱い、ついで数学の哲学の様々な立場に関する一般論を扱い、最後にMycielskiによる有限集合論を扱う。

寺田文行・木村宣明、『基本演習 線形代数』、サイエンス社、1990.

線形代数の初歩的な問題集。自分はある程度計算技術を身につけてからでないと、概念的なところがよく分からないのでこの本はよかった。ただ問題が並んでいるのではなく、一ページづつにまとまりを持たせてあって、ペースを作ってこつこつやるのにとてもよい…

三木清、『哲学入門』、岩波書店、1940.

あまり期待していなかったわりにはけっこう面白かった。西田哲学の概説のつもりと本人は書いているが、ベルクソンやハイデガーの影響が強いなという印象。行為という観点から常識、知識、道徳などを論じる。矛盾したものの統一という言い方を好むところや、…

John Etchemendy, The Concept of Logical Consequence, CSLI Publications, 1999.

もともとは1990年刊。ボルツァーノやタルスキを源泉とするモデル論的な論理的帰結の定義は直観的な論理的帰結の概念を正しく捉えていないと主張し、大きな論争を読んだ本。もちろんある程度、モデル論的な真理定義に慣れている必要があるので、そんなに取っ…

津田大介、『だれが「音楽」を殺すのか?』、翔泳社、2004.

音楽の著作権にまつわる最近の問題についての本。輸入権、CCCD、ファイル交換、音楽配信について、分析と論評を行う。基本的な問題の経緯などしっかり押さえられていて参考になる。各種の公式発表だけではなく、インタビューなどに基づく情報もある。一…

P.M.チャーチランド、『認知哲学』、産業図書、1997.

知覚を典型とする人間の初等認知能力に関する科学的成果を踏まえて、人間の認知構造の一般論を探り、それを基にして哲学的な問題と従来呼ばれているものに示唆を与えようとする本書は、きっかり50年後の『知覚の現象学』である(原書は1995年刊)。

E.ジルソン、『中世哲学の精神 上』、筑摩書房、1974.

大家による中世哲学の概説書。有名な名著で、明解で素晴らしい本だった。とっとと読んでおくべきだった。主にボナヴェントゥラ、アウグスティヌス、トマス・アクィナスを中心としながら、ギリシャ哲学によっていかに聖書による啓示の形而上学を構築するか、…

飯田隆編、『論理の哲学』、講談社、2005.

読み終わるのがもったいないと思った本も久しぶり。大抵は大筋が分かったら後は消化試合、という読書になるのだが、久しぶりにそうはならなかった。とても楽しかった。お気に入りは直観主義に対する誤解を逐一指摘して解消する第五章と、プログラムの基礎理…

H.ベルクソン、『創造的進化』、岩波書店、1979.

科学の限界を画しようとする試み、あるいはそもそも科学的結果のなかで哲学しようとする試みは評価が難しい。それはその後の科学の進展によってあっけなく反駁される可能性がいつも付きまとう*1。そのときまだそのような本が問いを提示しているとすれば、な…

Joan Weiner, Frege Explained: From Arithmetic to Analytic Philosophy, Open Court, 2004.

とても素晴らしい本。フレーゲの業績を、年代順、主要著作順にたどっていく。アリストテレスの伝統的論理学とブールの論理学というフレーゲが出発点となった時代状況から、『概念記法』、『算術の基礎』、「関数と概念」、「意味と意義」「概念と対象」、『…

J.C.トーマス、『コルトレーンの生涯』、学習研究社、2002.

たまにはこういう本でも。いろいろ調べてある伝記なのだけど、記述の年代が前後するところがあってちょっと混乱するのと、様々な人へのインタビューが脈略なく突然割り込んでくるのと、インタビューの相手がコルトレーンとどういう関係の人なのかが書かれて…

R.デーデキント、『数について』、岩波書店、1961.

有名な切断の概念によって有理数の無限集合から実数を定義した「連続性と無理数」、自己の中への単射による連鎖を用いて自然数論を展開した「数とは何か、何であるべきか」の二つを収録。かなりクリアな論文で、デデキントのスマートさがよく分かる。こうい…

烏賀陽弘道、『Jポップとは何か』、岩波書店、2005.

とても面白かった。90年代に流行したJ-popという言葉を中心に、日本の音楽産業の姿を描いていく。「世界と肩を並べたという商品イメージをつけた音楽」(p.17)であるJ-popが、CDの普及、TV−CMに関する広告業界の戦略、カラオケやバンドブームといった中…

E.T.ベル、『数学をつくった人びと 下』、東京図書、1976.

アーベルからカントールまで。上巻に引き続き、楽しい数学者評伝。やはりカントールで終わってしまうのが残念。もっと先も読みたい。

福井健策、『著作権とはなにか ーー文化と創造のゆくえ』、集英社、2005.

一般的にも評判が高い本。私も絶賛したい。とてもよい本だった。この本は例えば日本の著作権の法体制について述べることに眼目を置いているのではなく、むしろ著作物とは何か、なぜ著作物を保護しなければならないのか、といった法の背景にある著作権の思想…

新妻弘、『演習 群・環・体入門』、共立出版、2000.

こつこつと解いていたら、終えるまでにずいぶん長い時間がかかってしまった。全問に詳しい証明がついていて、初学者にはとても嬉しい。

I.カント、『判断力批判 上』、以文社、1994.

趣味で読む哲学としてとても面白かった。訳もけっこう読みやすい。注解は期待した程には役に立たなかった。索引に原語が併記されていないのはちょっと残念。美的判断は一切の関心を欠くこと。客観的ではないが普遍的な(あるいは、規範的な)美的判断。美し…

高橋正子、『計算論』、近代科学社、1991.

非常に楽しい。帰納関数論からλ計算とそのモデルを扱ったλ計算の入門書。難しいところも多々あるが、うまくつながりをつけるように書いてある。特にλ計算のモデルとしてどんなものが考えられるのかを一般的に扱った後にを導入するあたりは白眉。これによって…