フッサールの数学の哲学についてのメモ書き (5)

まだ前置き。

研究状況についてのメモ。

今では見る影もないフッサールの数学の哲学だが*1現象学が数学に寄与すると本気で考えた数学者・論理学者も三人はいた。ハイティンクゲーデル、ワイル。

このうちハイティンクフッサールについてはあまり研究が進んでない。仲介者となったベッカーの研究*2も含めて、このあたりの研究は最近ようやく始まったばかりという感じ。直観主義の成立過程についての研究もようやく本格的になってきた感じだし。

ゲーデルフッサールの関わりについては90年代に、フェレスダールの論文*3を発端として、ティーゼンの一連の論考でだいぶお馴染みになってきた感がある。少なくとも、ゲーデルの数学的直観の話が単なる素朴な考えではなくて、現象学をある程度背景にしたものだということはかなり知られたと言ってもいいだろうか。*4とはいえ、なぜかゲーデルの数学的・論理学的業績を本格的に考慮に入れてゲーデルの哲学を扱おうとする人が少ないのが気がかり。*5

ワイルとフッサールについては逆に、直観主義者の方から研究が勃興した感じがある。Husserl Studies創刊号の一番最初の論文として載ったファン・ダーレン先生の紹介論文*6がメルクマール。この分野についてはそれ以降、ベルを含め直観主義者側からの論文があるのが心強いところ。それに応えるようにフッサール研究者側からも最近いくつも出てきている状況だろう。

*1:やはりフレーゲの書評の影響は大きいと思われる。ここあたりカントールと事情が似ている。

*2:例えばV. Peckhaus (ed.), Oskar Becker und die Philosophie der Mathematik, Wilhelm Fink Verlag, 2005は、数学史家、フッサール研究者、一般的な数学の哲学者が集まるよい論文集だ。

*3:D. Follesdal, `Gödel and Husserl', in J. Hintikka, From Dedekind to Gödel, Kluwer, 1995.

*4:現象学に関するゲーデルの草稿がゲーデル著作集に収録される際、その解説をフェレスダールが書いてることなど象徴的だ。ただ、知られたと言っても「ゲーデルの数学的直観の話は単純素朴な考えでないにしても、ゲンショーガクとかいうよく分からないものに寄りかかってるそうなので、とりあえず別の見解を扱いましょう」という雰囲気になっただけだが。

*5:マーティンが少し書いてるくらい?このあたりはファン・アテンが研究を進めているようだし、期待かな。

*6:D. van Dalen, `Four Letters from Edmund Husserl to Hermann Weyl', Husserl Studies, vol. 1, 1984.